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(映画)『現在地はいづくなりや 映画監督東陽一』(2020年 小玉憲一) [映画]

90分という枠の中で、東陽一の仕事を語り尽くすのは、至難の業で、この映画の中でも、すべての作品を紹介しているわけではない。だが、肝になるところはしっかり押さえられている。ひとつは、魍魎という言葉で表現された現実と幻想の境界があいまいであるという意識。もうひとつは、「音楽がフィロソフィーを語っている」という点。
初期作から順番に語っていくのではなく、劇映画の最初の二つからいきなり最近作へ跳ぶ。そうすることで、ひとつずつ作品を生み出してきた東監督の確かな足取りが見て取れた。
監督自身の話も興味深かったが、登場する女優、中でも烏丸せつこの歯に衣を着せぬ発言に東監督がたじたじとなっているところが可笑しかった。
大谷恵理架というクラシックギター奏者--14歳だそう--が演奏する音楽を背後に流すだけでなく、本人が演奏している様子までじっくり写していたのは、東陽一映画の音楽に対する、小玉監督なりの挑戦と見た。
題名は、『やさしいにっぽん人』でオートバイに乗った男が拾う紙に書かれた文章から採られたもので、当該場面の幻想的な雰囲気と、現役バリバリの東監督の立っているところを表す、絶妙な仕掛け。東陽一を世間に知らしめなければという小玉監督の意気やよし。

上映後の監督挨拶で、『四季 奈津子』は、原作者に脚本を修正させられることを厭って、原作本を見ながら演出をしたという挿話が紹介されたが、映画の中にでてこなかったのは原作者への忖度か。
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