SSブログ

(B)『封印歌謡大全』(石橋春海著 三才ブックス刊) [本]

これはなかなかの力作で、丁寧につくられている。曲それぞれの解説の内容にムラがないし、脚注などもしっかりとしている。戦前から最近の歌までよくカヴァーされている。事実関係に特に間違いなどはなさそうだ。おそらく著者は、この研究をライフワークとしてじっくり制作に取り組んできたのだろう。出版社がなかなか決まらなかったとあとがきにあったが、出版までに何度も推敲を重ね、水準が高くなったのではないか。
多少、川内康範と克美しげるに寄り過ぎの感もあるが、前者は、この本の取材が「おふくろさん」騒動のきっかけになってしまったというのであればしかたがないか。後者は、本人の復活を企画しているということなので、こちらは著者の趣味ということで。
個人的に特に感心したのは、中山ラビの項目。「たいへんだぁ」の経緯は既知のことだが。著者はラビ本人に取材して、去年発売されたベスト盤でもレコード会社が収録しない曲があったと書く。なるほど、事前に発表されたラビの手書きのベスト曲目には確かに「13円50銭」があったことを覚えている。それがなくなったのはレコード会社の「自主規制」のせいか。ユニヴァーサル・ミュージックに幻滅。
本への追記をひとつ。去年、拓郎&かぐや姫・つま恋のNHK生中継を見ていたら、「ペニーレインでバーボン」が演奏された。この本で書かれている問題の箇所はどうなったか?
なんと、拓郎は、何事もなかったように「見ているものはいつも蚊帳の外で」と歌ったのだ。
事前にこの箇所についてNHKと打ち合わせただろうことは想像がつく。しかし、拓郎は拒否するなり、この曲をはずすなり、生中継をいいことに「つんぼさじき」と歌うなり、できなかったのだろうか。この本にも最近の拓郎に幻滅というようなことが書かれていたが、幻滅以上に、ここまで落ちぶれたかという感じだった。
「つんぼさじき」はいくらなんでも差別とは関係ないと思うのだが、そのため拓郎キャリアの中でも最高峰のひとつ「人生を語らず」がCDで発売されていないというのは音楽界の損失ではないか。同じソニーから発売されて、やはり差別用語で発禁になった友部正人のアルバムは、最近インディーズの会社からCD化されたが、これはどういう仕組みなのだろう?
結局これもソニーが悪いのかもしれない。自主規制は、規制をする主体が大きければ大きいほど、その封印力は強い。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0