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(B)『人工島戦記』(橋本治著 集英社刊) [本]

「あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科」との副題付き。
90年前半、バブルを引きずった地方都市が、海を埋め立てて人工島を作る計画を実行しようとしている最中、地元の国立大学二年の男子二人がそれに反対しようと思いつき、同好の士を集めて人工島同好会を作る。反対運動をどのように進めるか思案、試行錯誤しているうちにアンケートをとったのちデモをすることを決める。
というところまでの未完小説であるが、ここまでで二段組1200頁程の大部。93年に雑誌に発表したのは、160頁分ぐらいだったようなので、その後密かに書き継いでいたようだ。書きなぐっているという印象もなく、よく推敲されている。巻末の111頁分ある索引「人名その他ウソ八百辞典(1993年末現在版)」及び、15枚分の著者手描きの地図を見ると、舞台となる千州にある平野市なる人口110万人のかなり大きな地方都市--福岡を念頭に置いていたと思量する--と登場人物を綿密に作りこんだ上で、執筆されたことがわかる。(索引にはまだ登場していない人物名もいくつかある。)
結末までたどりつくには、おそらくこの量のさらに二倍くらい費やす必要があるだろう。何がそこまで長くさせたかと言えば、登場する各人の背景描写。両親や祖父母の代まで、住んでいる場所に絡めて詳述するのは、スティーヴン・キングも顔負け。
殊に「第よん部」の質屋家族の話は、江戸時代に城下町だったところがその後どのような変遷を経て今の町になったかという見事な都市論になっており、物語の流れとは関係ないながら、一番読ませる。後年著者が書いた小説--たとえば『草薙の剣』--は、時代背景を描きながら人物を描写するという形式を洗練したものだったとわかる。
愛すべき登場人物たちのその後を読めないのは残念だが、想像するのに十分な材料は開陳されている。
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