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(B)『蝙蝠か燕か』(西村賢太著 文藝春秋) [本]

まだ単行本に収録されていなかった近年の短編を三作収録。
注目すべきは100頁ある表題作。雑誌発表時に一読していたが、今回改めて読み直すと、藤澤淸造に関する自分の思いを総括したような内容は、まるで遺書のように感じられた。出だし数頁は特に、馴染みのない古い言葉が多用されていて、書き出しの推敲への力の入れ方が伺える。
貫多が2021年1月の「一人東京清造忌」の場で、2019年からの自分の活動を振り返り、最後は2021年8月1日に同じ場所に立つところで終わる構成は、もっと洗練する余地があったように思えたが、書きたいことをすべて入れることを優先させた結果かもしれない。
著者は通常、出版社や雑誌名に仮名を用いるが、この作に限って本当の名前を使っているところにももはや忖度不要といった意図を感じてしまった。(単行本化する際、仮名に変更するつもりだったのかもしれないが。)藤澤清造の全集を作るのは自分が一番欲しいからということなら、未刊行のまま終わっても、外野がとやかく言うことではない。
他の二作は、20、30頁の小品だが、両作とも他人の不誠実をなじる貫多の本音が出るところがクライマックスところが、著者おなじみであると同時に、怒りの収め方に著者の心境の変化があるようにも思えた。
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