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(映画)『逃げきれた夢』(2022年 二ノ宮隆太郎) [映画]

あと一年で定年を迎える男が主人公。中学校の教頭先生である彼は、職場ではやさしくそつがない一方、家では妻と子ども--成人の娘と中学生くらいの息子--には遠慮がちな口調で関係がぎこちない。本音を話せるのは、認知症の父親に対してだけ。そんな彼の日常を見せるだけで特に起伏のあるドラマはない。どこにでもいそうな男にひたすらカメラを向けているといった態。
わざわざスタンダード画面を採用しているのは、彼ひとりの世界を強調するためだろう。それを表象しているのが、歩く場面を正面から撮っている--すなわち撮影者は後ろ向きに動いている--場面の多さ。会話場面も、ひとりずつの切り替えしを使って、複数の人を同じ画面に入れないのは、個を見せたいからだろう。
主人公は、家族のために働いてきたつもりでいるのかもしれないが、ずっと自分の好きに生きてきただけだった。妻が登場するのは、映画が始まって30分もたってからで、それは彼にとっての妻や子どもたちの関係性を表している。
表と裏の顔のはざまにあって、父親にひとり語りするだけでは、精神の均衡が危うくなってきた彼が見つけたのは、食堂で働いているかつての教え子。彼女と本音をぶつけ合うことで、ひと心地ついた彼は、これから先の人生も「逃げ切れる」と思ったのではないか。
二ノ宮監督も、音楽の使い方に意識的で、この作品も劇中に音楽は一切なく、情緒に流れるのを排していた。
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