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(B)『風死す』(丸山健二著 いぬわし書房刊) [本]

各巻550頁前後で、四冊合わせて2,260頁。『我ら亡きあとに津波よ来たれ』あたりから著者が指向していたものが、当該作二巻建て、『おはぐろとんぼ夜話』は三巻、そして『ブラック・ハイビスカス』が四巻となって、今作でその形式の完成をみた。著者の指向とは、物語よりも語り手の意識の流れをそのまま書き記すことであり、そうすると終着点がなくなってしまうので、形式という枠を作るところから始める。各行を始まりを二文字ずつ下へずらしていき、三文字の行まで来たら、また上から同じことを始め、二回転して初めて句点を打つ。この塊を数回繰り返した最後の文を「風死す。」で締めて新しい章へという形式で四巻分。
主人公は26歳の泥棒。盗むために人を殺すことも厭わない性格--その始まりは養父母を殺したところから始まる--で、その彼が末期ガンに罹って死に近づいているという状況以外、特にドラマはない。著者の作品で一番物語性が薄いのではないか。その分、語り手が主人公のときはまだしも、神の声が語っているような箇所は、あちらこちらに話が跳んで、難しい文章ではないのに、頭に入ってこないことが多々あった。それこそが頭の中の流れということだろうが、行きつ戻りつ一行ずつ味わっても味わいきれない。何度も繰り返し読むことを求められているようだ。
それにしても、著者最後の長編だというこの作品、読んでいる人はおそらく百人にも満たず、もちろん専門家から批評が出ることもない。これが現在の日本の文学界の状況で、著者は「風死す」に「文学死す」を託して、この作品をもって文学が本当に死んだことを宣言しているのではないか。
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