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(B)『吉田正 誰よりも君を愛す』(金子勇著 ミネルヴァ書房刊) [本]

吉田のヨシは、土に口、だがなぜか活字がなかった。申し訳ない。
著者の専門は社会学ということだが(参考文献の引用の仕方がまさに学術論文スタイル)、吉田に関しての本を書くため、長年にわたり音楽の知識を身につけた上で、自らの専門に引き比べて吉田の音楽について分析した渾身の著作。
著者は、音階、リズム、など楽曲を具体的に分析することで、吉田の音楽の特徴及び時代を反映した活躍ぶりをあぶりだす。いわく「和声単音階と旋律的短音階を櫛して、リズムをジャズやブルースに変え、付点音符を多用した都会派歌謡を完成した」のが吉田正の功績となる。
吉田の前には古賀政男が「屹立する大山脈」としてそびえ、それを乗り越えるため吉田は独自の都会派歌謡を開発した。古賀に代表される「ふるさと派歌謡」は、四七抜き長音階や四七抜き短音階で特徴づけられるが、吉田の「都会派歌謡」は、Gを半音あげた和声的短音階や、FとGの両方を半音あげた旋律的短音階、もしくは自然短音階となる。リズムは、テンポを遅くしたブルース調で、三連符を多用する。
著者は、都会派歌謡をさらに「都会の風景」「成熟都市の愛の歌」「成熟女性の愛の歌」の三つに分類するが、その変遷は、歌詞や歌手が変わるだけでなく、吉田の曲も進化していくことを代表作の歌詞も載せ、吉田と組んだ佐伯孝夫と宮川哲夫という作詞家も紹介しながら多面的に分析する。
吉田のすごさは、その後、マーケットを見据え、橋幸夫の「メキシカンロック」などに代表される「リズム歌謡」なるものも手がけたことだ。「吉田学校」と称される、フランク永井、和田弘とマヒナスターズ、松尾和子、橋幸夫、三田明、吉永小百合など、吉田の作品を形にする歌手の力を引き出す力もあったということだ。
こうしてみると、吉田が活躍した歌謡曲の世界というのは、同時代の映画界と同調していることに気づく。ひとつは、歌手、作曲家、作詞家は会社専属となっていたこと。もうひとつは、50年代に黄金期を迎えたが、60年代半ばからは、グループサウンズの出現に伴い新しい作詞家、作曲家が登場し、吉田の世代は、活躍の場はだんだん少なくなってきた点など。
渡久地政信など、同時代の歌謡界の様子も書かれていて大変興味深く読んだ。フランク永井のCDは持っていないが、マヒナスターズの2枚組みベストを取り出して聴くとしよう。
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