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(B)『我ら亡きあとに津波よ来たれ』(丸山健二著 左右社刊) [本]

今回の語り手は三十歳の男自身。それがわかるのは読み始めてしばらくたってからで、上巻561頁、下巻585頁という膨大な量の中で物語は遅々として進まず、上巻では地震とそれに伴う洪水に見舞われた主人公がなんとか助かったらしいことと、自分にそっくりな死体が亡霊として登場すること、下巻では、主人公が養母介護に疲れて彼女を殺してしまう様子が語られる。積み重ねられる言葉は抽象的なものが多く、読みながら頭の中に映像が浮かばずいつになく読みづらい。養母を殺そうとする場面の逡巡や終わったあとの気持ちの整理の付け方など、下巻を大部分を費やす必要があるほど人の気持ちは複雑で定まらないものだと言いたいのかもしれないが、それにしてもこの過剰ぶりはどうだ。
著者は映像を喚起する言葉から、抽象的な言葉を並べ尽くすことで、文字通り津波を起こしてみせたという新たな挑戦のつもりかもしれない。また、結局主人公は生きていたのか死んでいたのか定かではなかったが、それ以外人間以外の生き物すらも登場せず、3.11を思わせる大災害のあとで生き物がいない世界を描いたという感じも受けた。
それにしても、この威容ぶりは、長年著者の愛読者である私も振り落とされてしまうほどで、さらに上下巻併せて8千円。。

上巻P553「怪鳥にされわれ」→「怪鳥にさらわれ」?
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