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(B)『疵 花形敬とその時代』(本田靖春著 ちくま文庫) [本]

著者の花形敬を描く視点は明快である。自らが肌身で経験した時代の空気を基に、面識はなかったものの同じ中学--新制高校--の二年先輩という花形の人となりに思いを致す。一時ヤクザと背中合わせのような暮らしをしていた自らの兄も同時代人の例として挙げながら。
千歳高校の卒業生を見ると錚々たる面々が並んでいて驚くが、世田谷辺に住んでいた人たちは、あまり選択肢もなく同校に入り、さらにその先はそれぞれが能力を生かして何者かになるしかなかった結果がそうなったとも言える。
ひとつ留保をつけるとすれば、描かれている「その時代」とは東京という場所に限定されるということだ。地方の人には、このような選択肢はなかっただろう。
昭和20年代が終わるころには、世の中が落着き、ヤクザに対する世間や警察の見方も変わり、安藤組もそのままでいることは難しくなった。その中で、花形の居場所もなくなったのだ。殺された経緯が意外とあっさり書かれているのも、それ自体著者にとって重要でなかったからだろう。
題名は、花形の顔についていたという無数の傷あとを指すだけでなく、時代の疵、安藤組の中にあって疵のような存在であったことも表象している。
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