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(V)『母の歳月』(1965年 水川淳三) [ヴィデオ]

主人公の半生を描く、戦争に向かう時代から敗戦直後を経て、現代までの話で、戦前の町のセットをしっかり作っているなどなかなかの大作。野田高梧の原作・脚本ということで力が入っていたのかもしれないが、水川監督を二作目で抜擢したのは、ヌーヴェル・ヴァーグ以後の人材を急いで育てる時期だったのだろう。
水川監督は、確立された切り返しではなく、カメラを大胆に動かしながらワンカットで撮ったり、鏡をうまく使った画面--三面鏡と本人の四人分の泣き顔--など、冒険的な試みをしていた。
戦争が終わって、せっかく復員した夫があっさり進駐軍の車に轢かれて死んでしまうまでは、各時代で起きた事件で話をつないでいくので、主人公の脳内音声で心境が説明される。この第一部が野田の脚本で、後半の第二部は赤穂春雄という脚本家--野田と同様戦前から活躍している--の手になる現代部分。こちらは時間を飛ばす必要がないこともあって語りが入らない。
今や女将となって料理屋を切り盛りする主人公の悩みは五人の子どもたち。下の子どもほど、母親の思い通りにならずハラハラさせられ、気の休まることがない様子を各子どもの挿話でつなぎ、情感たっぷりに見せる。
次女の彼氏が「原爆症」で亡くなるという戦争の後遺症も取り込まれていた。
ヴァイオリン奏者の次女がやるジャズらしき音楽を「ジプシーヴァイオリン」と称するのは初耳。
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