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(V)『妖怪ハンター HIRUKO』(1991年 塚本晋也) [ヴィデオ]

妖怪の存在を主張し、学界を干された考古学者が主人公。田舎で中学校の教師をしている義兄から、主人公の学説を裏付けるような古墳を発見したとの連絡をもらい、そこで悪霊と対決するという話。
古墳の中心にある学校が舞台で、義兄の中学生の息子とともに、悪霊と対決する流れにいきなり入るところが小気味いい。あとは、背中に顔がついているクモのような化物と、手製の武器で戦う主人公と中学生の二人の戦いを延々と見せる。主人公の稗田という名前から類推できるように、「古事記」を使っていて、冒頭部分が古墳の扉を開けたり閉めたりする呪文となる。
手製の武器がショボかったり、化物の造形に笑ってしまうような緩さがある一方、大勢の化物から逃れて封印できるかというサスペンスはしっかり描かれていて面白い。
見せ場だけに集中して90分でまとめた、いい意味で中高生向けの優れた娯楽映画。
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(B)『人工島戦記』(橋本治著 集英社刊) [本]

「あるいは、ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかのこども百科」との副題付き。
90年前半、バブルを引きずった地方都市が、海を埋め立てて人工島を作る計画を実行しようとしている最中、地元の国立大学二年の男子二人がそれに反対しようと思いつき、同好の士を集めて人工島同好会を作る。反対運動をどのように進めるか思案、試行錯誤しているうちにアンケートをとったのちデモをすることを決める。
というところまでの未完小説であるが、ここまでで二段組1200頁程の大部。93年に雑誌に発表したのは、160頁分ぐらいだったようなので、その後密かに書き継いでいたようだ。書きなぐっているという印象もなく、よく推敲されている。巻末の111頁分ある索引「人名その他ウソ八百辞典(1993年末現在版)」及び、15枚分の著者手描きの地図を見ると、舞台となる千州にある平野市なる人口110万人のかなり大きな地方都市--福岡を念頭に置いていたと思量する--と登場人物を綿密に作りこんだ上で、執筆されたことがわかる。(索引にはまだ登場していない人物名もいくつかある。)
結末までたどりつくには、おそらくこの量のさらに二倍くらい費やす必要があるだろう。何がそこまで長くさせたかと言えば、登場する各人の背景描写。両親や祖父母の代まで、住んでいる場所に絡めて詳述するのは、スティーヴン・キングも顔負け。
殊に「第よん部」の質屋家族の話は、江戸時代に城下町だったところがその後どのような変遷を経て今の町になったかという見事な都市論になっており、物語の流れとは関係ないながら、一番読ませる。後年著者が書いた小説--たとえば『草薙の剣』--は、時代背景を描きながら人物を描写するという形式を洗練したものだったとわかる。
愛すべき登場人物たちのその後を読めないのは残念だが、想像するのに十分な材料は開陳されている。
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(V)『彩り河』(1984年 三村晴彦) [ヴィデオ]

悪役である相互銀行社長の造形がなかなかのもの。
ある企業に不正融資するのに、変装して秘書のように見せかけたり、その会社社長の女が実は彼の愛人で、都合が悪いとみるや殺してしまったり。裏では政治家と太い関係を築き、相互銀行の協会長として融資枠上限を撤廃させようと動く。
彼の悪事がどのように明るみに出るかという話かと見ていたら、彼に私怨を持つ若者の復讐譚だったとは。。
その若者が当初何か目的を持って動いているようには見えなかったし、真ん中あたりから登場するヒロインも居るだけで重要な役割を果たすことがない。最後も証拠が残らない形で復讐するのかと思いきや、ただ怒りにまかせて刺しまくる--側近二人も死んでしまったのだろうか--のは芸がない。そもそも80年代半ばにして、こんな絵空事のような話は時代遅れだったろう。
低い位置など普通とは違う場所にカメラを据えて芝居を見せる画は、三村監督が加藤泰の薫陶を多大に受けている証左。
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(V)『太平洋の翼』(1963年 松林宗恵) [ヴィデオ]

太平洋戦争末期、日本海軍は戦闘機紫電改を開発すると同時に、優秀な乗組員を集めて部隊を結成し、米軍に対抗する作戦を実行する。『七人の侍』の面々が司令部にたくさんいて、若者たちを指導する役割。飛行部隊を指揮する三船が、特攻に批判的というところが注目点で、部下の危機に自ら操縦桿を握って助けに行く場面もある。
硫黄島、ラバウル、マニラで戦う兵士が日本に戻るのに、潜水艦が助けに来たり、米軍の船を奪ったり、燃料の少ない飛行機で帰る--荷物や死んだ人を捨てて--するところは、冒険活劇。見所は、やはり戦闘機の空中戦で、円谷英二の腕の見せ所。(特技監督の扱いは松林監督と同等に近い。)
結局、集められた彼らは飛行機もろとも散華するのだが、可哀想というより信念に殉じた彼らの姿に胸を打たれる。
最後は、片道切符で出撃した戦艦大和の護衛をする場面で幕。
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(映画)『山のかなたに 總集版』(1950年 千葉泰樹) [映画]

新東宝お得意の再編集して短くした版。もともと、第一部95分、第二部106分とあるから80分も短くなっている。学園ものなのに学校内の出来事がほとんどない上に、後半は--女性軍団の靴屋への団交、生徒同士の喧嘩--は先生の出番もほとんどないのは、面白い挿話を中心に再編集したためと思われる。
舞台は敗戦二年後--標準語でしゃべっているが東北の町のようだ--、映画が作られたのは五年後という時期のため、世の中の民主主義を浸透させる意識が濃厚で、先生だけでなく生徒も全校生徒の前に立って、問題提起したり、自分の意見を主張するという形式を始めとして、女性が一致団結して、大家に意見を通す--アリがライオンを倒すと形容される--のを見て、二年生全員で五年生に歯向かっていくという流れが興味深かった。
最後の15分ぐらいでまとめに入って、恋人同士になる男女が三組出来上がる。一番若い男女の組は、男の求婚を子どもが旗で指南する。そんな複雑な内容を旗で知らせることができないことはわかっているが、字幕で示される指示内容が可笑しい。子どもは途中で飽きて寝てしまって、指示を送っていなかったというのがオチ。
須川監督で10年後に再映画化されたものも見てみたい。
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(V)『リボルバー』(1988年 藤田敏八) [ヴィデオ]

鹿児島を舞台として競輪狂の二人組--まず二人が登場するのは別府競輪場--、勤務に倦んでいる警官とそのお見合い相手、高校生の男女、恋愛関係にある会社の上司と部下、バアで働く女など多彩な人たちを代わる代わる見せる。この調子で最後、舞台を札幌に移しても、つかず離れず交錯するところをずっと描く。
公開時に見たとき、ひっかかるところがないという印象が残ったのだが、それもそのはず登場人物それぞれの内面へ迫らず、彼らの行動が物語を生むところを見せる構えの映画だった。
部下に振られて自棄をおこしたサラリーマンが警官の拳銃を奪ってから、そのリヴォルヴァ拳銃が登場人物のひとりとして加わった。
競馬狂の二人を最後まで登場させたところがミソ。
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(V)『おらおらでひとりいぐも』(2020年 沖田修一) [ヴィデオ]

主人公である老女の孤独な暮らしぶり--友だちなし--をひとり語りの体裁で見せて二時間超飽きさせない沖田監督の剛腕。
妄想の話し相手を画面に登場させるのは珍しくないが、男三人にしたのが秀逸。ひとりでは会話が内省的になったり、その存在にもっと意味合いが生じてしまうが、三人ならばその他大勢の子分のような位置づけとなって笑い飛ばせる。頭の中の思考がしっかり映像化されていた。
彼女が夫に墓参りに行くのにバスを使わず山歩きをする挿話は、もっと映画のクライマックス的に妄想が極まるという形で盛り上げてほしかった。また、彼女の家の茶の間がそのまま妄想の舞台となるセットも力が入っていたが、ねずみが天井裏を走る茶の間の古びた感じと、最近の家のような外観がどうも合っていないように感じたし、そもそも主人公はもっと年寄りの人--飯田蝶子のような役者--が演じたほうががよかったのでは。
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(映画)『淫らな果実 もぎたて白衣』(2006年 加藤義一) [映画]

看護師の主人公が脳内音声とともにちょっと間抜けなところをみせる構えは宇能鴻一郎式。
しかし、気づいてみれば、気に入った相手を次々に乗り換えていき、興味がなくなった人たちには退場してもらうという、したたかな女性に成長していたというところがミソ。
題名は、男性にひと目惚れすると、果汁が溢れるように「じゅんじゅん」するということで、レモンを絞る映像がご丁寧にも都度挿入されていた。
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(映画)『痴態道楽 熟女発情くりかえし』(2024年 竹洞哲也) [映画]

この作品、昨年末に先にR-15指定の『くりかえし百子』として公開されていた。小松公典のピンク映画百本目の脚本とのことで、浦島太郎の話を取り込んだ野心作。
主人公が助けたカメからお礼に竜宮城へ連れていかれて玉手箱をもらうところまでは昔話をなぞっている。ところが玉手箱が不良品だったようで彼女は死んでしまう。生き返る方法があるのだが、それを試すと別の人の体になってしまい、失敗して何度も違う人の体になって挑戦するというややこしい状況。
荒唐無稽、かつカメやら竜宮城やらごちそう、生まれ変わって別の人になるという設定は、お金がかかりそうなのに、すべてを簡便に済ませ、登場人物は女三人、男三人だけでまとめるという恐るべき力業。
カメとタコと死んでしまった主人公の三人のとぼけた会話が小松脚本らしいが、今回は主人公がいろいろ体験する中で、幸せとは何かを学んで成長するという深い展開。百本目にふさわしくしみじみさせてもらった。
乙姫さまがセックス好きだけどマグロ、というのが可笑しかった。(石川雄也のタコも最高!)
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(V)『ヨーロッパ』(1991年 ラース・フォン・トリアー) [ヴィデオ]

舞台は、第二次大戦後のドイツ。米国人の主人公がドイツ人の叔父の紹介で車掌として働き始める。ドイツの復興を手助けしたいと思っていた彼が、いつの間にか占領軍に反抗する組織「人狼」の活動に巻き込まれていくという話。
この作品も黒白画面で、占領下のドイツの鬱屈感や緊張感がよくでていた。画面が時折彩色されている場面があって、その意図はわからなかったけれど、現実と幻想の合わいを見せるような内容にふさわしい。『エレメント・オブ・クライム』の語り口でしっかり物語を見せている感じ。
『エピデミック』にも出演していたが、今作にもウド・キアーが出ていて、初期からフォン・トリアー組の常連であったことがわかった。
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