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(B)『人の世界』(丸山健二著 田畑書店刊) [本]

『われは何処に』と『風を見たかい?』の再録本かと思ったら、例によって書き直していた。
書き直しは内容より形式で、一頁、35字×15行に『われは何処に』は各挿話を収め、『風を見たかい』は、ひと段落としている。特に後者は、頁を最大限使っている場合もあれば、一行、二行のときもあり、それが物語に緩急をつけている。
先日の講演会で著者は、文学とは「人の世界を描くこと」と言っていたが、それを堂々と題名に冠して、前者はさまざまな人物の描写を集め、後者はひとりの若者が各章ごとに異なる心持ちを持つ様を描いている。
後者で、出奔した田舎へ戻る章があるが、母親の暮らしを家の外からこっそり覗き見る場面は、北町寛多に通じるものを感じてしまった。ここから最後までの三章が、若者らしいというか人間らしく、今回読んでこの主人公がとても好きになってしまった。
文庫本の大きさで小型辞書のような装幀が手になじんで、好もしい。
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