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(V)『さよなら くちびる』(2019年 塩田明彦) [ヴィデオ]

一人の男と二人の女の三角関係を見事に描いている。普通であれば、二人の女性が一人の男を好きになって、という関係になりそうだが、この場合は矢印はそれぞれ違う方向を向いていて、三角形の中でぐるぐる廻るだけ。誰にも流れは変えられない。
その関係に終止符を打つための、最後の全国ツアーという設定がまた良い。浜松、四日市、新潟といった町のライヴハウスの様子が大いなる見どころ。関係がボロボロになっていながら、歌うと息が合った演奏を見せるところに、プロはこういうものかと嘆息してしまった。
場所は移動するが、三人の話なので、会話場面の撮り方--歩きながら話す場面を正面から撮る--がいろいろ工夫されていたのと、三人の誰かが突出してしまわないように、ひとりずつを写す時間配分を計算していたように思えた。
三人の関係を見せ、それがまだ終わらないという結末も含めとてもよくできた映画で、塩田監督の復活も嬉しかったが、交わされる音楽界についての会話が紋切り型のように感じてしまった。二人の歌は見事だったけれど--映画の題名曲より「誰にだって訳がある」という歌の方がよかった--、逆に三人があまりに整いすぎていて、本物の音楽家にやらせたらどうだったろうという思いが残った。
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