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(V)『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年 マイク・シーゲル) [ヴィデオ]

サム・ペキンパー監督の映画を順番に紹介し、関係者のインタビュウを交えて彼の生涯をたどるというすこぶる一般的な形式。
彼が好む男の世界や、主人公の頑固な性格には、厳格な父親の影響があったことを知った。また、自分の理想とする画が撮れるまで徹底的に粘ったり、芸術肌でアル中となれば、ハリウッドで好ましい職人監督ではなかった。アリ・マッグローが『コンボイ』撮影時に途中で辞めたくなったというのに、実感がこもっていた。
ペキンパーは黒澤映画に、親近感を覚えたのではなかろうか。米国以外の方が人気があるということで、このドキュメンタリーも米国製ではなく、ドイツで作られたものだ。
最後の仕事が、ジュリアン・レノンのPVだったというのも初めて知った。作品を見てみたが、普通のPVで、特にペキンパー印があったわけではなく、ちょっと悲しかった。
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(B)『武智鉄二 伝統と前衛』(岡本章、四方田犬彦編 作品社刊) [本]

武智鉄二が情熱を注いだ芸術が何であったかがわかる。
戦前は自費で演劇評論の雑誌を出し、無料で演劇を公演し、戦後はやはり自費で伝統芸能の担い手の生活を助けた。所謂「武智歌舞伎」が志向していたのは、古典劇として原点に還り、役者には能、狂言、文楽の所作を学び直させるという伝統を重視するということ。その後は、能、狂言を混淆し、オペラや劇にまで発展させ、演劇界の閉鎖性を突き破ろうとした。
映画については、四方田が担当した映画監督として武智を評論した章における「反米もの」と「谷崎もの」に分類できる主な作品の解説により、「巨大な異端監督」としての武智像が浮かび上がる。また、志村三代子によって武智の『源氏物語』には、『黒い雪』裁判を経て、さらなる体制批判が根底にあったことが明らかになる。
武智とともに前衛劇を行った歌舞伎や狂言の役者の対談。川口小枝へのインタヴュウはさらに武智鉄二の人となりがわかるわかる仕掛け。読み応えがあった。
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(映画)『静かについて来い』(1949年 リチャード・フライシャー) [映画]

これは探偵もの。連続殺人事件を追う刑事が主人公。特ダネをものにしたい醜聞誌の女性記者が彼につきまとい、最初は嫌がられているが、犯人逮捕につながる重要な手がかりを助言し、捜査に貢献する。
この作品の犯人は、本物の異常者で雨を見ると--雨に打たれると?--冷静な性格が変わってしまう。刑事に追い詰められて、工場に逃げ込んで--住宅街から『白熱』のような工場が舞台という唐突な設定--、最後は高いところから落ちるという流れかと見ていたら、確かにそうではあったものの、一旦逮捕されてから、水に濡れて、、というところにひねりがあった。
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(映画)『不審者』(1951年 ジョセフ・ロージー) [映画]

窓から見える部屋の中の女性が覗いている人に気づいて驚くという開巻がわくわくさせる。
主人公は異常性格者という見方もでき--拳銃を持つと人が変わるという女の指摘もある--、脚本に加わったダルトン・トランボもそれが狙いだったのかもしれないが、ジョセフ・ロージー監督が、松本清張的主人公のように演出したということではないか。
最初の夫殺しは、用意周到に実行されたものだし、そもそも熱を上げていたのは女の方で、主人公は一回拒絶している。二度目も、妊娠している彼女の容態が心配だったため、危険を顧みず医者を連れてきたのが元で、すべては彼女との新しい生活が元凶となっている。
予期せぬ方向に坂道を転がるように落ちていくきっかけとなったのは、家の中で、死んだ元夫のラジオ番組のレコードがかかったこと。それを止めに走った女が突然倒れて、嵐もやって来て、、。
悪いことは露見するという話だが、無残に殺されてしまう主人公が悲しみを誘う。
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(V)『新宿スワンⅡ』(2017年 園子温) [ヴィデオ]

始まってすぐに舞台が横浜となって、これでは「横浜スワン」ではないかというのはよしとしても、根本的に設定がおかしいところが多々あり。ヒロインが登場場面から何か隠してそうな雰囲気があったのに、結局何もないまま、変なうさぎ踊りが見せ場とは。また、コンテストで勝つとどうなるのかとか、一番悪そうな全酒連の会長には何も起きないまま終わりでよいのか、など。
殴り合いの場面の迫力だけは見どころ。(しかしあれだけ殴られても、普通に動ける主人公が不思議)決闘場面に流麗な音楽を流すという異化効果もあった。
園監督は、続編まで引き受ける必要はなかったのに。(そうしてくれたら、見ずに済んだものを。)
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(V)『舞妓はレディ』(2014年 周防正行) [ヴィデオ]

地方から出てきた少女が京都の料亭で修業をして舞妓になるまでの話となれば、音楽も邦楽を取り入れたものになりそうだが、踊りと音楽は欧米ミュージカル風にしたところがミソ。
種ともこの詞が先に出来て、周防義和がそれに曲をつけたという制作過程は、種の本で読んだので知っている。(京都弁の素養がある彼女は、イントネーションと曲の旋律についての助言も行った。)
歌と踊りは見どころ--厳しい踊りの師匠が突然踊りだすところなどとても楽しい--ではあるが、数は多いけれど、ひとつひとつが短く、あくまでも話が主体となっていて均衡がとれていた。
セットも見もので、こじんまりとした料亭街はもちろんのこと、大学の研究室が、『教授と美女』を思わせるらせん階段付きの天井の高い部屋もよかった。
この作品も主人公は新しい人という配役。
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(B)『黄金夜界』(橋本治著 中央公論新社刊) [本]

主役三人に同じ名前を使い、金持ちに婚約者を取られるという「金色夜叉」を現代を舞台に置き換えた小説。(連載紙も同じ新聞だったようだ。)それによって明治と平成の違いを描き出すことが著者の意図したことと思われ、金と愛情が秤にかけられた明治時代とは異なり、主役の若者二人にその二つを比べるなどという発想はなかったとなる。
女性の方は、モデルとしての仕事を充実させるため「大人になりたい」と思って、新しく現れた男の元へ行くことにした。一方、振られた男は、その辛さを封じ込めるため、働くことに没頭した。金持ちの社長、貸金業の女、レストランを経営する父親たちは、金に執着する上の世代だといえる。
それぞれの世代の人たちの特徴が書き込まれているところは著者らしい上に、洋服や食べ物や電脳世界などの現在の風俗も詳しく書かれていたところに感服した。どのように決着をつけるのかワクワクした。
そして著者らしからぬ悲劇的な結末に驚いたが、現代にこの話を置き換えたらこうなるというだけでなく、著者の世の中に対する悲観的な見方を反映していたものかもしれない。
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(映画)『つつんで、ひらいて』(2019年 広瀬奈々子) [映画]

書籍の装幀家、菊地信義を追ったドキュメンタリー。古井由吉の『雨の裾』が出来上がったところから始まるのを見ると、3年、4年という長きにわたるじっくり腰を据えた撮影だったことがわかる。菊地が聴き手=監督に話す様子には、親密さが感じられ、撮るカメラの側も彼の領域により踏み込んでいるような印象を受けたのは、取材期間の長さの故かもしれない。
最初は、装幀の第一人者--一万五千冊を手掛けたならきっとそうだろう--の仕事ぶりは、装幀家一般のそれなのだろうと思いながら興味深く見ていた。そのうち、こんな風に装幀するのは、菊地だけだろうという思いが強くなってきた。
表紙の文字、配置、表紙から見返しの紙の質・色など装幀に関する設計図は、本の中身から感じられるものから湧き出てくる。時には、作家の肌の色という解説もあった。菊地の装幀は、とりわけ文字を重視していて、あれはきっと菊地の仕事だったのだなという本がいくつか浮かんできた。
古井由吉の装幀をずっと手掛けていたのが菊地だったとは知らなかったが、古井本人へのインタヴュウは思いがけないところで、大変興味があるものを見られて--古井がパイプでタバコを吸うとは知らなった--得をした感じ。
とぼけた感じの音楽もよかった。最後の歌に鈴木常吉を起用するところも、広瀬監督なかなか趣味がよろしい。
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(映画)『発情物語 幼馴染はヤリ盛り』(2019年 竹洞哲也) [映画]

昨年9月、『言えない気持ちに蓋をして』を見た際、舞台挨拶で竹洞監督は仕事で青森に行っているという話が出ていたが、この作品を撮っていたようだ。その舞台挨拶には櫻井拓也も飛び入り参加していたのだが。。彼の最後になってしまったこの作品は、図らずも彼にふさわしい役柄でかつ主役といえる内容。『レンタル女子大生 私、貸します』の自分レンタル男テルが、十和田湖辺の故郷に戻って、心に傷を負った友達を立ち直らせるという話。
ヒロインを演じるは、川上奈々美。竹洞作品の前二作は共に深澤脚本で、内向的で自分の気持ちを外に表せない未成熟な女性という人物像が出来上がっている。小松公典脚本--またまた小松に戻ったのはなぜ?--ではどう変化するか見ていたら、人物像はそれが踏襲されていたけれど、男の夢の中で淫乱女になるところが新境地だった。
動きの少ない彼女に対して、派手な恰好をしてご当地アイドルを演じる辰巳ゆいが、こちらも彼女本来の持ち味を出して好対照。
「子どもは親にとってサイコウノバカヤロウだ」と母親に言われてしまうテルは、やはり自分の思ったとおりに突き進み、最終的には友だちを立ち直らせることに成功するが、二人の女性とは妄想や夢の中だけで、現実には何の交渉もないという可哀相な立場だった。東京にいる彼女!に電話で不満をぶつけて、また活躍しそうな余韻を残していたのだが。。
青森までロケに行ったり、ドローンを使う経費がよくあったなと心配してしまったが、彼女が家まで走る場面では、ドローンを使ったり、十和田湖を背景とした風景は、若者たちの物語の余韻をさらに増幅させてくれた。
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(映画)『湯けむりおっぱい注意報』(2017年 小川欽也) [映画]

冒頭と最後に、小川監督が口上を述べる部分が付いている。脚本の水谷一二三とは小川監督の筆名であること、これまで420本ぐらい撮ってきたが、これから年一本でやっていきたいなどが語られる。加藤義一が助監督を務めているのも含め、関係者が大先輩を大切にしているということだろう。
この作品は、東京で彼女とうまくいかなくなった童貞男が、先輩と車で伊豆方面に出かけて、途中知り合った女たちと情を通わせたりするが、結局彼女の元へ戻るという話。登場する女優たちが皆魅力的で、それをしっかり見せる小川演出はさすが。紫陽花を背後に男女が並ぶ画も素晴らしかった。
しかし、そうなると女の相手をする男の方に童貞感がまったくなくなってしまうという不都合も起きて、話の主題はどこかへいってしまった。
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