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(映画)『つつんで、ひらいて』(2019年 広瀬奈々子) [映画]

書籍の装幀家、菊地信義を追ったドキュメンタリー。古井由吉の『雨の裾』が出来上がったところから始まるのを見ると、3年、4年という長きにわたるじっくり腰を据えた撮影だったことがわかる。菊地が聴き手=監督に話す様子には、親密さが感じられ、撮るカメラの側も彼の領域により踏み込んでいるような印象を受けたのは、取材期間の長さの故かもしれない。
最初は、装幀の第一人者--一万五千冊を手掛けたならきっとそうだろう--の仕事ぶりは、装幀家一般のそれなのだろうと思いながら興味深く見ていた。そのうち、こんな風に装幀するのは、菊地だけだろうという思いが強くなってきた。
表紙の文字、配置、表紙から見返しの紙の質・色など装幀に関する設計図は、本の中身から感じられるものから湧き出てくる。時には、作家の肌の色という解説もあった。菊地の装幀は、とりわけ文字を重視していて、あれはきっと菊地の仕事だったのだなという本がいくつか浮かんできた。
古井由吉の装幀をずっと手掛けていたのが菊地だったとは知らなかったが、古井本人へのインタヴュウは思いがけないところで、大変興味があるものを見られて--古井がパイプでタバコを吸うとは知らなった--得をした感じ。
とぼけた感じの音楽もよかった。最後の歌に鈴木常吉を起用するところも、広瀬監督なかなか趣味がよろしい。
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