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(B)『黄金夜界』(橋本治著 中央公論新社刊) [本]

主役三人に同じ名前を使い、金持ちに婚約者を取られるという「金色夜叉」を現代を舞台に置き換えた小説。(連載紙も同じ新聞だったようだ。)それによって明治と平成の違いを描き出すことが著者の意図したことと思われ、金と愛情が秤にかけられた明治時代とは異なり、主役の若者二人にその二つを比べるなどという発想はなかったとなる。
女性の方は、モデルとしての仕事を充実させるため「大人になりたい」と思って、新しく現れた男の元へ行くことにした。一方、振られた男は、その辛さを封じ込めるため、働くことに没頭した。金持ちの社長、貸金業の女、レストランを経営する父親たちは、金に執着する上の世代だといえる。
それぞれの世代の人たちの特徴が書き込まれているところは著者らしい上に、洋服や食べ物や電脳世界などの現在の風俗も詳しく書かれていたところに感服した。どのように決着をつけるのかワクワクした。
そして著者らしからぬ悲劇的な結末に驚いたが、現代にこの話を置き換えたらこうなるというだけでなく、著者の世の中に対する悲観的な見方を反映していたものかもしれない。
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